Small IAの空洞化について:Small IAさみっちょふたたび

  1. Small IAの空洞化について:Small IAさみっちょふたたび

2015年8月21日からちょうど4年ぶりの2019年8月21日にSmallなIAをテーマにしたイベント、Small IAさみっちょを開催しました。

今回はリアルイベントではなくFacebookライブで、坂本さん森田さん、私で事前に受け付けた質問に答えたり、鎌田さんに合いの手をいれてもらいながら配信という形で実施しました。

Small IAさみっちょの様子

SmallなIAってなんだ?とか当日の質問全体に関しては、坂本さんのブログに詳しいのでそちらに譲ってここでは私が気になったトピックスを少し掘り下げてみます。

  • Web界隈のIAは、UXデザインに吸収合併されたの?
  • 4年間で変わったことは何ですか

という質問をもらったことから考えた、「Small IAの空洞化について」です。

Small IAの空洞化とは

ワイヤーフレームを品質高く書くプレイヤーが減った?

少し前にとある大手企業のWebマスターとの方と話し、「最近、イケてる会社がUX業務はやってくれるがワイヤーフレームまで書いてくれない。実装メインの会社は品質高いワイヤーフレームが書けなくて困るんだよね」という話を聞いた。

IAというワードに付加価値があった時代には、イケてる会社がサイト設計、情報設計を売りにしてそこにかかる費用も高く、最後の実装までフィニッシュさせる会社が多かった。しかし、いまは、ワイヤーフレーム作業のコモディティ化、価格下落、UX業務のニーズの高まりから、イケてる会社がワイヤーフレーム業務までやらず、UXの範疇で仕事を区切るようにもなってきたということだろう。

仮にフィニッシュまでやったら費用がかかりすぎる。じゃあ、実装をする会社がUXの文脈を汲み取ってワイヤーフレームをかけるかというとできない。しかも、この現象はそれほど難しいPJではなく、いわゆる昔だったら当たり前のような普通のワイヤーフレームの品質までも届かないケースも増えてきているという。

手段が目的化したワークショップが増えた?

画面設計の工程でも、一緒にワークショップでやりましょうというケースも増えていて、やることは構わないが、画面設計としてはいまいち品質が上がらないで困ってるということもあるらしい。情報の重み付けには意味があると思うが、UIはクライアントと一緒にやることが正解なケースのほうが少ないのではないかと思う。

ビジネスレイヤーのインプットや顧客に関してワークショップ形式でともに考えることは有用だと思うが、アウトプットに一定の知識が必要となる専門領域かつ誰でも口が出しやすいものは一緒に考えることがうまくいかないケースも多い。一緒に作り上げているから決済者の満足は得られて、PJメンバーは否定が出来ないが、良いものにならないなんていうケースもある。決済者がわからずやで、現場が結託して承認を取りに行く裏技みたいな使い方もあるので背景次第ではあるが手段が目的化したワークショップは危険でもある。


Small IA業務のドーナツ化現象
そんなことを話していたのだが、これを受けて坂本さんがかっこいい図を書いてくれた。

donut.001.png

<引用:Beyond Small IA #smallia


イケてる会社や人はBigIA、つまり上流工程としてのUXのほうにいってしまい、Interface、実装をするところは新人も多く設計業務ができなくSmall IA業務ができるプレイヤーが空洞化しているのではないか、ということを示した図。

個人的には少ないサンプル数のヒアリング結果ではあるものの、割とリアリティがあるのですが皆さんの実感はどうでしょうか。ぜひコメントが欲しいです。なお、この話ではPJ規模の定義が必要で、例として一部上場企業レベルのWebサイトを想定しています。

Small IAニーズの再燃と価格向上はあるのか

この話は「市場」「組織」「個人」の3つの視点で考えなければならないよねと当日も話しになりました。

市場観点では、Web黎明期に比べてIAニーズが減ったし価値も減った。黎明期はWebで情報を整理するということがどういったことなのかが誰もわからなかったので、そこに0ベースで取り組む価値も効果もあった。けれど、いまは普及、定着したよねと。

定着というより無数のWebやアプリができたことにより、パターンが見えて、それっぽくつくる真似がしやすくなり、IA工程の価格も下がり、組織もそこにフォーカスしなくなって、個人のスキルも結果的に身につかない。このような変遷ですね。

3つの視点もこういった技術変遷も普通に類似事例がいっぱいあります。制作でいえば、HTMLも結果だけいけば似てると思います。でも、たとえばHTMLとIAがとちょっと違うのは、HTMLのようにツール進化の割合がIAタスクだとまだ少ない。ステンシルやテンプレートパターンなどがあるとはいえ、現在ではまだ人間が設計する割合が高いです。設計ですからね。でも、今後は、ビッグデータからの最適なパターンセットなどでまた状況が変わってくる可能性は十分にあります。

話を戻して、ドーナツ化は市場ニーズの再燃として捉えられるのか。課題があるとなればそれはそれでニーズにつながるはずです。ビジネスチャンスがあるのかも?とも思って少し考えたのですが(笑)、おそらく一度下がった価値はそうそう再燃はしないなと思います。一度下げた値段はあがらない。

ちょっとあざとい話ですが、新しい呼び名がついたりすれば別なところもあります。なにかUSまわりではここに課題があるならば新しい名前ついていたりしないんでしょうか?

個人的にはSmall IAにもなにか新しい名前がほしいです(笑)。私はSmall IAに興味があるというよりはSmallに興味があります。これからの社会では上流だけ、開発だけといった20世紀的な分業スタイルだけではなく、効率を上げるところは徹底的に生産性をあげつつ、思想をより濃く反映した実装、運用、改善がより価値を作っていけると思っているからです。そういった思いで、この企画にジョインさせてもらってます。

ニーズが減っても誰かがやらなきゃいけない工程

工程としてなくなっていいわけではないのでニーズが減っても誰かがやらなければなりません。BigIAサイド、インターフェースサイドどちらがやるのかというと、インターフェースサイドの人たちがやるケースが増えるのだろうなと思います。ただ、そこでもいまはUX全盛で、実装レイヤーではグラフィックからプログラミングまで覚えることが山程あるなかでIAが少しないがしろにされているのは事実でしょう。でも、誰かがやらなければ工程としては大切で情報設計、UIは誰でもできるほど簡単な業務ではない。では、どうするのか。

どうやって楽に品質を高めるのか

自社でも同じことは正直起きていて、そこで取り組んでるのがIAに限った話ではないのですが「超テンプレ化」という呼び名で社内では進めています。視点としては資産を活かしましょうと。自社の資産もWeb黎明期から培ってきた資産も昔に比べて山程あります。これをちゃんとフレームワーク化して経験が浅い人でも使えるようにしていきましょうということです。

クリエイティブを語るときにこういったフレームワーク活用や資産活用の取り組みは敬遠されがちですが、私はどんどん使うべきだと思っています。具体から抽象を導く力は実は難しい。だから、ある程度抽象化されたフレームワークから具体的なアウトプットをつくる訓練が大切です。

これは「真似る」ということにも繋がります。話が少しそれますが、ユーザーはいくつものWebサイトを見て回ります。では、競合と同じラベルをつかうことはUX向上につながる側面もあるのではないか?など1つのWebサイトに閉じないで考えることは、ラベル1つでも真剣に考えられる大切な視点の1つです。

加えて、最低限のベース知識。ラベルをちゃんと揺れなく正確なものにしましょうだったり、情報分類としてのまとめ方パターンを知識として知っているとかそんなところからかなと思ってます。

カイゼンと初回品質の問題

ABテストしながらカイゼンしていきましょうというのは、ここ4年の変化でよりフォーカスされるようになってきました。この流れはとても理にかなってるものですが、ここまでの文脈をベースに極端にいうと、80点と80点でABテストをするのか、30点と30点でABテストをするのかということでしょう。

初回は基準となる数字を自分たちで作ることができないので、定量的に初回品質を見極めるのはわりと難しい作業です。初回品質が良いこしたことはないのは自明ですが、100点をめざしてめちゃくちゃ時間をかけることはコストがあいません。けれど30点ではそもそもの品質が悪い。ちょうどよい落とし所を目指す。Small IAの空洞化はこんなカイゼンがフォーカスされてきた背景もあるかもしれません。

一気通貫かインターフェース側の歩み寄り体制か

カイゼンも初回品質も、どうやって継続して高い品質を担保していく体制をつくっていくのか。1つ案は先の通り超テンプレ化。これで最低限のベース部分は対応できると思います。ただ、最近のプロジェクトはリアルからデジタルまでシームレスで考える必要があり、そこで考えられた全体のUXをデジタル領域において、どんな情報を提供し、整理し、インターフェースに落とし込むのかはかなり難易度が高い作業になりました。これは超テンプレ化だけでは賄えません。

難易度が高いUXからそれぞれ実装するもののインターフェースへの落とし込みを一気通貫で1社が見るというのは1つの手ですが、当然できるところは多くは無いですし、業務が効率的ともいえないので、それができる会社はブティック的なところが多い。

大きな母体でやろうとしているところはM&Aが多い。コンサルファームやSIerがデザイン会社を買収したりというのもこの流れの1つです。ただ、組織としては1つに近くなりますが、コスト圧縮としての体制として買収している実態があるといまのところうまくいかないケースも多いところです。

Bigな人たちがSmall作業はやらないし、やれないので、上記の通りM&Aが多いのですが、インターフェース側の人たちがUX、デザイン思考などを武器にビジネスレイヤーが得意な会社、広義のデザイン会社とチーム体制を作るというのがもう1つのトレンドです。

INIでも業務領域はインターネット領域に絞ってますが、UXはデジタル以外も描くようになりましたし、デジタル領域以外の空間や建築などが得意な会社と上位なレベルでチームを組むということもでてきました。

先の「市場」「組織」「個人」でポジション、強みとするところは違えど、こういった視点で自身や会社のSmall業務を見てみると違った気付きがあるかもしれません。

そんなSmall IAさみっちょですが、隔月くらいでまた配信をしたいなと話しています。

よかったらFacebookページでいいねお願いします。

サービスに関するお問い合わせ

マーケティング、フロントエンド、バックエンドの知見と経験で、企業と生活者のより良いコミュニケーションをご提案します。

チームを円滑に動かすプロマネ術